シジュウカラガン物語
しあわせを運ぶ渡り鳥、日本の空にふたたび!

  • 呉地正行+須川 恒(日本雁を保護する会)編
  • 発行 京都通信社
  • 装丁 納富 進
  • カバーイラスト 幕田晶子/戸島直子
  • A5判 304ページ
  • 定価 2,970円(税込)

はじめに(抜粋)

シジュウカラガンとはどのような鳥か。黒い首と白い頬が目だつこの鳥はマガモなどのカモよりひとまわり大きい程度の小型のガンだ。頬に小鳥のシジュウカラのような白い紋様があることが、その名の由来となったようだ。
アリューシャン列島や千島列島の険しい島で夏に営巣・繁殖し、冬になると千島の群れが日本に渡ってきていた。東北や関東を中心とする日本の空で多く見られたが、1938年ころに急激に減少し、渡りが途絶えてしまった。安全だと思われていた北方の繁殖地の島々に人間が多数のキツネを放したために、その餌食となって絶滅の危機に瀕してしまった。
この本は、ガンの一種シジュウカラガンが、絶滅の縁からふたたび日本の空によみがえることになった長い道のりの物語とその記録である。
「日本雁を保護する会」という小さな保護団体の歩みをまとめた物語でもある。雁を保護する会がなぜ生まれ、日本の雁類保護の問題にどうかかわってきたのか。国内の多くの野鳥観察者とどのようにつながり、熱意ある自治体の人たちと連携し、国境を越えてガン類保護に熱意をもつ多くの人たちと深いきずなで結ばれ、活動し、夢を実現してきたのか。その成功事例が、この本が扱う「シジュウカラガン復活物語」である。強い思いが、道を拓く。これは私たちがシジュウカラガンの取り組みから学んだことだが、これは私たちから読者のみなさんへのメッセージでもある。

「日本雁を保護する会」呉地正行

もくじ

はじめに 群れよ、日本の空にふたたび!

第1章 絶滅したシジュウカラガンを復活させたい

  • シジュウカラガン復活にかけた横田義雄
  • シジュウカラガンがやってきた!──国内各地からのレポート
  • 物語に登場する主要人物一覧
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 物語に登場する主要人物

日本

横田義雄
日本雁を保護する会創設者 初代会長
那波昭義
環境庁自然保護局鳥獣保護課鳥獣専門官(当時)
呉地正行
日本雁を保護する会 会長
堀田正敦
江戸幕府・若年寄
島野 武
仙台市長(当時)
根本策夫
仙台市八木山動物公園 園長(当時)
大津真理子
Mariko Parslow Otsu
日本雁を保護する会
池内俊雄
日本雁を保護する会/雁の里親友の会事務局長
須川 恒
日本雁を保護する会
千村裕子
ロシア語通訳・翻訳家
葉山久世
かながわ野生動物サポートネットワーク
阿部益夫
仙台市八木山動物公園 飼育係(当時)
阿部敏計
仙台市八木山動物公園 副園長(当時)
幕田晶子
デザイン&イラスト「グーシィー」
鈴木道男
日本雁を保護する会
瓜生 篤
日本雁を保護する会
峯浦耘蔵
元田尻町町長/国際田園研究所所長
加藤博企
仙台市八木山動物公園 獣医師(当時)
堺 博
日本雁を保護する会・伊豆沼湖沼群の自然を守る会

ロシア

ニコライ・ゲラシモフ
ロシア科学アカデミー・カムチャツカ太平洋地理学研究所
アーラ・ゲラシモワ
ロシア科学アカデミー・カムチャツカ太平洋地理学研究所
ユーリー・ゲラシモフ
ロシア科学アカデミー・カムチャツカ太平洋地理学研究所
エフゲニー・シロエチコフスキー Jr.
モスクワ鳥類標識センター ガンカモ類調査研究センター
アナトリー・コワレンコフ
ソグジョイ社長
アレクサンドル・アンドレエフ
ロシア科学アカデミー・北方生物問題研究所(IBPN)

アメリカ / その他

ジェームス・バートネク
米国内務省魚類野生生物局(USFWS)
フォレスト・リー
(ファザー・グース)
米国魚類野生生物局・北方平原野生生物調査センター(NPWRC)
シジュウカラガン回復チーム
バーノン・バード
米国魚類野生生物局 シジュウカラガン回復チームリーダー
カール・シュルツ
民間ガンカモ・ブリーダー
ポール・スプリンジャー
米国魚類野生生物局シジュウカラガン回復チーム
マーガレット・ ウイリアムス
WWFアラスカ代表
ヘンリー・スノー
海獣狩猟家

第2章 シジュウカラガンの生態と人とのかかわり

  • ガンの仲間たちと亜種の存在
  • シジュウカラガンの分布・個体数の歴史的変遷
  • 絶滅の危機に陥れた犯人はキツネと毛皮好きの人間たち
  • 千島列島での日本の養狐事業
  • アリューシャン列島でも悲報が相次ぐ

第3章 絶海の島に奇跡の小さな群れを発見

  • 米国ではじまったシジュウカラガン回復への挑戦
  • 16羽のヒナを捕獲して人工繁殖を開始する

第4章 日本の回復計画の成功と失敗── 潜んでいた落とし穴

  • 米国の協力をもとに増殖の第一歩を踏み出す
  • 繁殖と飼育、野生復帰の技術を米国で学ぶ
  • 越冬地・中継地で飼育・放鳥する不自然さと限界

第5章 伝説の鳥類学者、ニコライ・ゲラシモフとの邂逅

  • 鳥への愛情が導いた友情と連携 ロシアとの国際協力
  • ゲラシモフ初来日の激震──仙台でシジュウカラガンに出会う

第6章 日米ロの三国で共同プロジェクトがはじまる
── カムチャツカに繁殖施設をつくり、放鳥を開始

  • 繁殖施設をカムチャツカで建設開始
  • 19羽のシジュウカラガンが米国からやってきた

第7章 カムチャツカで数を増やし、エカルマ島に放鳥する

  • 国内・国際の人のネットワークが風を起こす
  • 増殖施設の設備と機能、そして日々の仕事
  • 放鳥の島、エカルマ島の姿と環境

第8章 「増やそうシジュウカラガン」、「減らそうカナダガン」

  • カナダガンはキツネ同様、侵略的外来種
  • 人間は、外来種にどう接するべきか
  • 難航する丹沢湖畔の全数捕獲と妙案
  • 生息数約100羽。いまなら、なんとかなる
  • 野外「ゼロ羽達成」と今後の課題

第9章 5,000羽の群れが北日本の空を舞う!

  • エカルマ島での2010年の放鳥を最後に
  • 毎冬ごとに倍増をつづけた越冬渡来数

第10章 未来に向けた活動 ── ガンとの共生をめざす「ふゆみずたんぼ」

  • 日本の雁ぞ 楽に寝よ
  • 蕪栗沼の掘削計画という危機に立ち向かう
  • 「ふゆみずたんぼ」で生息地を復元する

日ロ米で物語を見守る三人からのメッセージ

  • 自然保護上最大級の偉業 バーノン・バード
  • 誰がどのようにシジュウカラガンを救ったか ニコライ・ゲラシモフ
  • 日ロ米連携の成果 鳥居敏男

おわりにかえて

  • 物語のおわりは、あらたな物語のはじまり

おわりにかえて(抜粋)

シジュウカラガンよ、夢をありがとう!
シジュウカラガン復活をめざす取り組みがはじまった当時、日本に渡ってくるシジュウカラガンは、最大三羽で絶滅寸前だった。しかもそれは数千羽のマガンの大群のなかに紛れこんでいたので、そのなかからシジュウカラガンを探しだすのは、砂漠で落とした針を探すのと同じくらいたいへんなことだった。そのために「シジュウカラガンの群れをふたたびよびもどそう」と呼びかけても、ほとんどの人の反応は「そんなことはできっこない」と冷ややかだった。
それから三七年の月日を経て、シジュウカラガンの群れはみごとによみがえった。その数は五〇〇〇羽を超えるようになり、空の端から端まで覆い尽くすように群れ飛ぶシジュウカラガンを目の前にすると、ほんとうにすごいと思う。これこそ私たちが思い描いていた夢の風景だ。長年の夢が実現し、そのよろこびは言葉では言い表せないほど大きい。そのいっぽうで、これは一夜の夢で、夜明けとともにすべてが消えてしまうのではないかと思うこともある。シジュウカラガンの劇的な復活は、その取り組みに長年かかわってきた私たちにとってもいまだに信じがたい出来事でもある。
シジュウカラガン復活の長い道のりを冷静にふりかえると、夢が実現できた背景には、日ロ米三国のシジュウカラガンに特別の思いをもつ人びととの強い絆が、運も味方につけ、奇跡的な成果を生み出したように思う。どれか一つ欠けてもゴールにはたどり着けなかっただろう。国内外の多くの同胞のみなさんにはあらためて深い感謝の意を表したい。
さらに、私たちがもっとも感謝しなければならないことがある。それはエカルマ島に放され、ひたすら日本まで渡ってきたシジュウカラガンたちだ。放鳥後に日本まで渡ってきた鳥の多くは、その年の夏に生まれたばかりの生後数か月の若鳥だ。その若い鳥が、いったん閉じてしまった千島列島から日本への「ガンの道」の扉を押し開けた。その後は自分の子どもたちを連れ、その道を何回も往復しながら、渡りの道を復活させた。
シジュウカラガンよ、夢をかなえてくれてありがとう。これからもきみたちの子孫が、千島列島から日本の空へと夢を運びつづけ、故郷宮城の七北田低地で再会できることを願いながら、謝辞を閉じることにする。
2021年7月 吉日

「日本雁を保護する会」 呉地正行/須川 恒


シジュウカラガン物語
しあわせを運ぶ渡り鳥、日本の空にふたたび!

  • 呉地正行+須川 恒(日本雁を保護する会)編
  • 発行 京都通信社
  • 装丁 納富 進
  • カバーイラスト 幕田晶子/戸島直子
  • A5判 304ページ
  • 定価 2,970円(税込)