にぎやかな田んぼ イナゴが跳ね、鳥は舞い、魚の泳ぐ小宇宙
WAKUWAKUときめきサイエンスシリーズ5
にぎやかな田んぼ
イナゴが跳ね、鳥は舞い、魚の泳ぐ小宇宙
夏原由博 編著
発行 京都通信社
装丁 高木美穂
A5判 248ページ
定価 2,500円+税
2015年3月31日 発行
ISBN 978-4-903473-54-3
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赤とんぼがいなくなる。そんな兆(きざし)があらわれている。トノサマガエルやメダカは、すでに絶滅危惧種とされてしまった。長く田んぼで暮らしてきた生きものたちだ。
日本の田んぼは、5,000種を超える生きものに生きる場所を提供してきた。田んぼが支えてきたのは、生きものだけではない。雨水を貯えることで下流の洪水を緩和し、あるいはうつくしい景観を提供するなど、多面的な機能をそなえる。その経済効果は年間8兆円に達するともいわれている。
生きものたちが田んぼから失われつつあることは、人間社会の未来への警告でもある。赤とんぼが減少している原因は、「環境に優しいから」と使われはじめた農薬が、卵からかえったばかりのヤゴには優しくなかったことが原因だ。圃場整備にともなう冬期の乾田化も、産卵場所の減少や越冬卵の死滅を招いている。生産の拡大と環境保全のジレンマという日本の農業の古くからの課題の象徴であるともいえる。
田んぼと農村は、食料を生産するだけの場所ではない。人が生まれ育ち、暮らす場所でもある。食料自給率の低下とともに寂れてよいというものではない。田んぼの生きものたちは、たとえ経済的な価値を産まなくても、地域をささえる役割を発揮している。
農業は食料生産を担う産業であり、農家の経営が成りたたなければならない。大規模化、効率化は必須であろう。しかし、畦のない田んぼやコンクリート張りの深い水路は、生きものの生きる場所を奪う。近代化した田んぼも、生きものたちに配慮することは可能であるはずだ。田んぼは工場ではない。田んぼ自体が生態系の一部である。周辺の生態系と調和した工夫が必要であり、地域と田んぼの生態系についての詳しい知識が蓄積されなければならない。本書は、その一助となることを願っている。
夏原由博 「はじめに」から抜粋
