コロナ禍で考える

いのちの四季
生病老死

  • 井村 裕夫 著
  • 発行 京都通信社
  • 装丁 南 剛 + 中村 美喜子
  • B6判 222ページ
  • 定価 1,760円(税込)
  • 2022年2月4日 発行

心とは何か、それはいまだに簡単には答えられない生命科学の課題である。
心は人類未踏の高山のようなもので、その未知の分野を解明すべく、いくつかの登山路から登頂が試みられている。
人は必ず心をもっており、さまざまな不安に心が揺れていることが多い。
医師はそのような不安にどのように対処するか、それは変わることのない課題である。

「医師として生きる」より

人は、いや人のみでなくほとんどの生物は、生まれたときから死に向けた生を歩むことになる。それは、ほとんど意識されたものではない。
人においても、現代社会では幼児期、小児期、青年期において、死が意識にのぼることはほとんどない。
私は医師として長く生きてきたので、死に向けたさまざまな生のあり方に接してきた。
¥死とは何か、それは古来から哲学の重要課題であるが、正解はないのであろう。
結局、死に向けた生をどう生きるか、ある充実感をもって生きることができれば、もっとも幸せではなかろうか。

「死に向けた生」より

もくじ

  • はじめに

  • 第一部 生病老死と人の一生 医に生きて想う

  • 「生」の始まり

    • 生命とは何か
    • 生命のつながり――三八億年の歴史
    • 個人の生命の始まり――神の領域に踏み込みつつある医学
    • 遺伝子治療の是非――生命世界への挑戦か?
    • 大切な脳の発達――周産期の環境
    • 人の心の発達と闘争心――暴力はなぜ横行するのか
    • 人に特徴的な発達の期間――アドレッセンス
    • 人は生まれか育ちか
  • 果てしない病との闘い

    • 感染症の脅威――COVID―19と関連して
    • 重要さを増す感染症学――感染症の教科書を閉じてはいけない
    • ウイルス――この不思議な、しかし密接な存在
    • 疫痢――自然消滅した感染症の不思議と腸内細菌
    • 成人病から生活習慣病、そしてNCDへ
    • 太りゆく人類
    • 糖尿病の津波――増え続ける世界の糖尿病
    • 胎生期から始まる人の健康と疾患――健康な人生のために
    • 早期環境と健康――発達プログラミングという考え方
    • がん――高齢化とともに増え続ける疾患
  • 老いと死を巡って

    • 急速に進む少子高齢化――人生100年時代の「未富先老」
    • 老いとは何か
    • 新しい人生戦略――ライフ・ステージの変化
    • アンチ・エージングとサクセスフル・エージング
    • 更年期を巡って――進化医学からの考え方と今後の課題
    • 人はなぜ老い、死ぬのであろうか
    • 死の基準の変遷――脳死を中心に
    • 死の受容
    • 死が遠のいた社会
    • 死に向けた生
    • むすび
  • 第二部東アジア人の健康と病気

  • COVID─19を契機に考えたこと

    • 糖尿病とインスリン分泌
    • 移民の研究
  • 糖尿病はアジアの病気か

    • 東アジア人の形質のさまざまな特徴
    • 東アジア人に多い病気――異型狭心症
    • いま一つの東アジアに多い病気――頭蓋内ジャーミノーマ(胚腫) の場合
    • 医学における人種の問題
    • 東アジア人はどのように生まれたのか
    • 新型コロナ・ウイルス感染症の遺伝的背景
    • 個別化医療のための人種の医学
  • 第三部医学と心

  • 医師として生きる

    • 診察から診療へ
    • 主治医への信頼と医師の立場
    • 冷静な手と温かい手
    • 見る、話す、触れる
    • 心を読む――心の理論
  • 医師の心と患者の心

    • 自己認識の異常――神経性食欲不振症
    • パターナリズムからインフォームド・コンセントへ
    • AI時代の医の心
    • 大学病院の医師のモチベーション
  • 長寿を楽しむ

    • 認知症の予防
    • 高齢者とうつ
    • 向上するIQの平均値
    • 性格はどのように決まるのか
    • 心と神経科学
  • 第四部鼎談コロナ・ウイルス・パンデミック時代を生きる

    • シンポジウム「ウイルスと人間社会」開催の趣旨
    • 感染の現状と対応の成果・課題
    • 多様な変異ウイルスにも対応策はある
    • 重篤な患者への治療薬、アクテムラ
    • ステロイドで炎症を、アクテムラでサイトカインの嵐を抑える
    • 血管の内皮に作用するIL-6の働きと治療法
    • 不可能ではない抗ウイルス剤の開発
    • 現状のワクチンと展開の可能性
    • ウイルスの免疫学的メカニズム
    • mRNAワクチンの特性と機能
    • 自然と環境の乱れが感染症を発生させているのではないか
    • 〈追記〉mRNAワクチンワクチンをめぐって──その開発の歴史とわが国の課題
  • おわりに